Picaresque

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日本国内で人気があって、物凄い発行部数と幅広い層の読者を誇り、しかも独自の物語性や美しい表現に満ち溢れているのに、批評家があまり取りあげない大衆的な作家陣が僕は好きだ。バイオレンス小説、復讐譚では勝目梓、笹沢左保、そして、西村寿行などがこれに当たる。勝目梓はもともと純文学の出身で、1969年の『花を掲げて』が直木賞の候補にもなり、後に『獣たちの熱い眠り』が映画化され話題になった。同氏には九州で炭鉱夫として働いていた過去もある。エロい小説を書く女性だなぁ、と思っていたら実は男だった。サラリーマン小説では城山三郎もよく読んだものである。登場人物の惚けた感じが独特で、悪役に魅力があって、ピカレスク小説としても楽しめる作品が多かった。警察物では、逢坂剛を好んで読んだ。どこか突き放した、美しい透明な文章を書く作家である。スパイ小説、中東などの戦場を舞台にした小説では森詠が僕のオススメ。この作家の『戦場特派員』という奇想天外な長編小説には度肝を抜かれた。地味な作家だが、ハードボイルド小説の分野では河野典生も忘れてはいけない。この作家には『デンパサールの怪鳥』や『他人の城』という素敵な掌編がある。SF作家の筒井康隆とも交流が深かった。大衆小説なのか純文学なのか分類しにくいが、吉村昭も絶賛したい。『破獄』や『仮釈放』の緻密な描写と深い考察、意外な展開には少なからず驚かされた。そういえば、三田誠広も多様なスタイルを持っていて、繊細ながらも博識を窺わせる作風が秀逸である。ユーモラスな悪漢小説の分野では小林信彦も好きだったなぁ~。高校生が通学中に地下鉄駅の売店で、これだけ文庫本を買って読めたのだから、日本の出版文化は世界に比類なきものである。

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